竜介軍少佐のブログ

色々投稿しようと思ってるので時々見てね

竜介、感謝する!

冬の訪れを実感する、令和二年十一月末日の北海道某所。
竜介軍筆頭にして二等兵の竜介は、いつものパンツ一丁の姿のまま右手を腰に当て、旧型スマートフォンで電話という直接通信により軍団員を招集していた。
現在応召しているのはさとことななしん。
普段着がその姿とはどうにかならぬものかと物言いたげな目で竜介を見るさとこ。最近漫画を始めたという事で、意気揚々と微笑みを湛えスマートフォン上で漫画を製作するななしん。二人のリアクションは一様に何故招集されたのかという理由に無関心であるという点であるが、それはいつものこと。
肝心の竜介は現在ルメに電話をかけているところで、当人は丁度パワプロの佳境にあるらしく、とても招集には応じられぬとの事だった。
この返答に流石の竜介も憤慨したのか、次のように彼は言った。
パワプロパワプロってなあ、お前いっつもおんなじゲームやってるけどたまには他のをやれよ。え?大きなお世話?折角俺んちで軍団員限定で最強にハマるゲームやらせてあげようとしたのに。なに、臭いから嫌だ?お前な、俺んちに来たことがないのにどうしてそんな事が言えるんだよ。なんだと!臭いのは俺の部屋だけだって!?」
ななしんが夢中になって漫画を描いている横で、竜介とルメとの電話のやり取りにさとこは欠伸をしてしまう。ルメは面倒くさいから来ないだけだと、どうして彼は察せないのか。
「えへへ…ここで彼が放屁して…」
変わらず邪な微笑みを湛えるななしんに、さとこは退屈なのもあって、貴方は一体どんな漫画を描いているのかと問う。するとななしんは満面の笑みで、よくぞ聞いてくれました、とばかりに語り出す。どういう訳か、彼の顔がいつもより脂ぎって見えた。
「デブショタちゃんを呼び出して焼き芋をたっぷり腹いっぱい食べさせて、ぷるっぷるのお腹に放屁増加の呪印をかけたい。その焼き芋は100倍のおならが出るお芋を使っていて――」
「あ、もういいんで」
北海道の特に厳しい寒さを実感させられるかのようなさとこの台詞に、ななしんは悄然とすることなく再び漫画製作に入った。どうやら今の彼に何を言っても無駄らしい。
「はぁー、ダメだ。ルメ、伍長、少佐はやっぱり来ない。あの白状共め、それでも竜介軍か」
スマートフォンをベッドに放り投げてがっくり頭を垂らす竜介。
ななしんといい、招集された理由を未だ説明しない竜介といい、竜介の部屋のアンモニア臭といい、辟易したさとこは竜介に問う。何故集めたのかと。
「ぶはははー!よくぞ聞いてくれた、さとこよ!良いか、もうじき十二月に突入してしまうだろ?」
確かに十二月になる。十二月といえばクリスマス、大晦日に翌日の元旦といった世間が一年で最も騒ぎ立てるイベントが目白押しだ。
けれども、それらのイベントに縁遠い竜介軍としては、竜介が一体何を画策しているのかさとこには搔暮知れぬ所であった。
ふふん、と笑い竜介が言う。
「いいか?2020年末でAdobe Flash Playerのサポートが終わるだろ?すると、もなちゃとが使えなくなっちゃうだろ?だれかHTML5への代替移行してくれればいいんだけどよ、そんな事してくれる奴いないだろ」
「それで?」
「まだわかんないのか、さとこ。感謝するんだよ、もなちゃとに。竜介軍が結成されたのは他ならぬもなちゃとのおかげじゃ!だから今日は集まってモナちゃとに感謝するため、パーティーをするのだ!ぶはははー!」
キンコーン…
インターホンが鳴った。
「誰か来たみたいだねえ」
スマートフォンから目を離さずにななしんが言う。どうやら彼は漫画製作に集中しているようで、竜介の話や周囲に注意を向けているようだった。
「ふっふっふ、あの男が来たのだ。“りゅーかすぐん”と言っておきながらなんだかんだでやって来るあの男…ひろみが!」
ひろみGOが来る。
だが、彼が来ると言って何があるという訳では無い。さとこの心中は冷めていたが、
「お、ピザ屋のひろみGOが来たか」
…という、竜介の言葉に反応する。ピザは彼女の、いや、みんなの好物だ。
「うむ!あいつが廃棄ピザを沢山持ってきてくれるぞ。それにビールもかっぱらってくるそうだ!ぶはははー!」
竜介の自室ドアが開く。
そこには両手の平にピザの箱を乗せたひろみGOがいた。
「やぁー!みんな、おまたせ!ひろみGOだよー」
「ピザ屋さん、オッスオッス!」
「まあそういう事情だったらしょうがないなー」
ななしんとさとこはピザに釘付け。この場の全員が笑顔になったが、その影で、本来禁じられている廃棄品の提供を、危険を顧みずもってきたひろみGOに竜介は謝意を示した。
そもそもこの催しを竜介が最初に持ちかけたのはひろみGOで、ひろみGOが前回のようにタダで廃棄品を調達すると提案したのを、竜介がやんわりと断った。竜介はひろみGOの立場を危うくさせてまでピザを安く手に入れるつもりはなく、今回は代金を支払って入手するつもりだったのである。
だが、竜介は察する。
ひろみGOが持ってきたピザは注文した内容と代金を払った分量より多く、それにデリバリーを依頼していない。
もしかすると、ひろみGOは竜介の配慮を察知してこのような行動に及んだのかもしれない。そうだとすると、なんとも言葉少なげな男同士の気遣いであるな、と竜介は苦笑するのだった。
「おい、りゅーすけ。なにわらってるんだよー」
「ぶはははー!ひろみGOよ、俺様のおごりじゃ、ピザを堪能せい!」
「いわれなくてもそうするよ。ばいとおわっておなかへったしねー」
色々あったが、このピザと共にもなちゃとへ感謝したい。
ありがたや、ありがたや。
(即興)