竜介軍少佐のブログ

色々投稿しようと思ってるので時々見てね

竜介、褒美を取らせる!

「うーん…」
いよいよ厳寒となった北海道某所で、パンツ一丁の竜介は、アンモニア臭が気になる自室にて腕を組み考え事をしていた。
彼は残念な事に、沈思黙考する集中力はあれど、その結論がとんでもない所に行ってしまうことが多い。そして、それに巻き込まれるのが竜介軍の軍団員である。特に今招集されているななしんとさとこはいつもの事で、その二人は碌でもない事に巻き込まれると承知しているのにも関わらず不思議と足を運んでしまうために、しばしば厄介な目に遭っていた。
「なあ、ななしん。どう思う?」
唐突に竜介が問う。被質問者は即答した。
「何が?」
「いやさ、俺って普段から超頑張ってるじゃん?へへ…」
「何が?」
「だからさ、そんな自分に褒美を取らせるのだ!ぶはははー!……って思うんだよ 」
「何が?」
「何がって……ななしん、漫画描いてないで俺の話聞いてくれよ!」
ななしんは竜介の目を見てしっかり話を聞く姿勢になっていた。一方さとこはというと、冷めた様子で無表情のまま、持参した冊子をぺらぺらと捲っていた。
二人のこの様子を見て、竜介がはっ、と冷水を浴びせられたかのような思いになる。
そうだ、自分へ褒美を与えるに値する働きを、俺はまだ話していないじゃないか、と。
「ほら、俺はスロで頑張って勝とうとしてるし、軍団員の増員計画を毎日練っているしぃ~…」
それ以上浮かばなかった竜介は、二人の反応を待つ。ななしんは途中から聞くのを止めた様子だが、次のさとこの言葉に関しては、彼の身に突き刺さるようなものだった。
「それが褒めるに値することか?竜介。お前は俺達に何かやらせて、騒ぎたくて呼んだんじゃないの?」
先日のピザパーティーに関してはひろみGOの計らいで再び絢爛たるものになりはしたが、それはそれ、これはこれ。しどろもどろになっている竜介の考えが完全に読めたさとこは、クールに一刀両断した。
「竜介、俺がお前に出来る褒美といえば、この一言を送るだけだ。“仕事をしろ”。それじゃあね」
そう言い捨てると、さとこは竜介宅を後にした。そしてななしんも、
「俺もさとこさんも、仕事の合間に来てるんだ。竜介さん、そういうことだから」
……と、部屋がいつもより臭うのか、彼も足早に竜介宅を去っていった。

なんだよ、みんなして。
竜介はテレビの電源を消した直後のようなこの静寂に、自室に居るというのに蕭索たるものを感じるのだった。
キンコーン…
インターホンが鳴った。
このタイミングはひろみGOだろうか?流石にピザは飽きたけれど、それでも何も無いよりかはマシだ。
少し気持ちが高揚した竜介は玄関へと向かう。
ところが、竜介は意外な来訪者を迎えることになる。
「少佐!?」
竜介軍少佐。
彼は竜介軍で最も影が薄く、存在すら忘れられている人物である。
少佐という階級を彼に与えたのは竜介自身だが、その竜介も彼の事を殆ど知らない。
そんな少佐が抑揚の無い声で挨拶する。
「よお。とりあえずこいつをあんたに渡しとくよ」
セイコーマートの袋に入っているもの。ジャックダニエルの700㎖瓶だった。
「なんと、ウィスキーか!ありがっとう!」
「“現役”の頃のあんたなら安酒だろうけれどな。まぁこいつで我慢してくれよ」
ななしんは元気の出るポエム、さとこは豊富な医療関連の知識、ひろみGOはピザで少佐はウィスキー。なるほど、趣味、特技、好みが違えば差し入れの内容も違う。
竜介はテレビで会得した知識のように、翌日になると忘れてしまう出来事を目の当たりにした。
少佐を自室に通すと、他の軍団員は床に腰を下ろすのに、彼はそうせず壁に寄りかかり腕を組む。
“まぁ座れよ”と言う感じでもないため、竜介は気まずい雰囲気のまま黙っていた。
「どうした?今日はいやに無口だな」
お前のせいで話しにくいんだよ。加えてさっきの出来事だ。
竜介はそう言いたいのを堪え、まぁちょっとね、と明言を避けた。
「まさか失恋ってわけじゃねえだろうが、オレでよければ話を聞くぞ」
……こいつではなくて、他の軍団員やひろみGOだったらどれだけ楽なことか。
けれども竜介にとって大変落ち込むことではあったので、先ほどのななしんとさとことの間に起こった出来事について、少佐に説明した。
すると彼は暫し沈黙していたが、やがて次のように口を開くのだった。
「毎日のように褒美を受けているあんたが、自分に褒美をあげるだと?笑わすな」
「俺が?褒美を?」
「普通に考えてみろ。ニートでひきこもり、小便をペットボトルへ済ますような野郎に、誰がついて行くというんだ?誰がプリペイドカードをくれてやるというんだ?その点をみれば、あんたは十分、いや、十分過ぎるほど恵まれている。さとことななしんがよく来ているようだが、それも一つの褒美だ」
同じラインに立つ者たちからすれば、竜介はかなりリードしているというのが彼の考えだ。
なんの見所も無い自分を慕ってくれる軍団員。もしかすると、自分は逆に褒美を取らせなくてはいけない立場にあるのではないか。
「……だが図に乗るなよ。組織を統べる者としてじゃねえ、一人の人間として軍団員と接するんだ」
少佐が竜介の思考を呼んだかのようにそう言った。
観念した竜介は、スマートフォンを手に取る。
「分かったよ。さとことななしんに謝るよ」
「それだけじゃ足りねえよ。良い意味であんたは変わるんだ。“多少はまともになった”と軍団員に思わせるんだよ。そうすりゃあ伍長との過去の軋轢だって雲散霧消するだろうし、今後なりすまし等といった茶番をする事は無くなるだろう。ルメだってここに来てくれるかもしれないぜ」
正論ばかり言う少佐に辟易する竜介だが、こと人間関係に関しては、予想だにもせぬ所で軋轢を産むことがあるというのは同意する。それもネットの人間関係ならば、時に重大な損害を被る場合も。
現実的に考えれば、面白おかしくされない立場になる方が我が身も守ることに繋がるのを、この少佐というつまらぬ男から改めて気付かされる竜介であった。

暖房により火照った体が、竜介に換気の必要を訴える。
窓を開けると、外は雪がこんこんと降っている。ここに訪れる者たちは、一体どうやって来てどうやって去ってゆくのだろう。
ふと思った竜介が少佐に尋ねる。
「そういえば少佐はどうして俺の家に来たの?」
「たまたま通りかかっただけだ。でなければこんな臭え所に誰が来るかよ」
「……うむ」
竜介はジャックダニエルから暫く目が離せないでいた。
(即興)