竜介軍少佐のブログ

色々投稿しようと思ってるので時々見てね

竜介、体調を崩す!

深々と冷える冬の北海道某所。
その日竜介軍筆頭、我らの二等兵が熱を出した。
愛する母に古き良き時代と呼ばれる昭和に製造された体温計を出して貰うと、左脇に挟み暫し待つ。
結果は、流石の竜介も目を見開く衝撃的なものであった。
体温計が記す数値は40℃。専門知識がなくとも成人の発熱にしては異常であると分かる。
これを見て、竜介母が思わず叫ぶ。
「あんた!なんでこんなに熱があるの!まさか今流行りのコロナ…」
竜介はおろおろする母を少しでも心配かけまいと、発熱した頭で咄嗟に言う。
「ンな訳ねーだろ母ちゃん。俺、全然外に出てないし」
これは嘘だ。
先日竜介は母に与えられたなけなしの小遣いで、スロットを打ちに行っていた。もし竜介の体調不良がコロナウィルスによるものだとすると、その時に感染したのかもしれない。因みに一縷の望みに賭けたスロットの勝敗は惨敗に喫し、所持金は僅か二十円となってしまった。
「あ、まぁそれはそうだわね。でも一応病院に行っておきなさい。お粥も自分で出来るよね?」
……母の財布から渡される紙幣を見ながら竜介が思うこと。
誰が病院など行くものか。医者に払う金があるのなら、それを全てスロットに回す。
竜介は己の身が壊れてでもスロットに金を投じる、ギャンブルの廃人と成り下がっていた。
母が出社して少し経った午前十時半。愚なる竜介は母の助言を無視し、アンモニア臭漂う自室で、与えられた医療費をどの台で使うか考えながらベッドに横になっていた。
しかし横になっていたのはただ単に高熱が理由ではない。どういう訳か先ほどからおなかが痛むのだ。
それもただの腹痛では無い。寝返りを打つだけでずきん、ずきん、と痛む。これは病院に行った方が良いかもしれない…。
けれど、今ベッドに横たわっている状態でさえ、竜介は高熱のだるさと腹痛の苦しみにより立つことが出来ないのだった。
そんな時、インターホンが鳴った。
キンコーン…
居留守を決め込むつもりの竜介は、インターホンを無視する。
キンコーン…キンコーン…キンコーン…
連続で鳴らされるインターホンに、はてこれは誰だろうかと痛むおなかに苦しめられながら竜介が考える。彼は自分の交友関係にある人物を、インターホンの鳴らし方や訪れ方でだいたい判別出来るのだ。
例えばさとことななしん。この二人はすっかり竜介宅に訪れるのを慣れているのか、無断で上がり込むうえに母とも面識を持っている。先日現れた少佐はかなり控えめにインターホンを鳴らすし、ひろみGOはインターホンを鳴らしたらやはり無断でさっさと上がってくる。
「(うるせーな…)」
仕方なくおなかを抑えながらゆっくり階段を下りて玄関へ向かう竜介。外との境界線である玄関は冷えており、パンツ一丁の彼を更に苦しめる。
正体不明の来訪者は一体何者なのか?
軍団員だったらどうしてくれようか。
高熱とおなかの痛みとで余裕のない竜介は乱暴に玄関を開けた。そこには…。
「ルメ?ルメか!?」
なんと竜介軍ルメが、グレーのダッフルコートにネイビーブルーのニット帽を被った出で立ちで、雪だらけの竜介宅玄関に立っていた。
「そうだ、ルメだ。遅いぞ!」
過去幾度となく招集を依頼したというのにその都度動かなかった人物の突然の来訪に、体調不良とはいえ竜介はその後の言葉を失った。そして竜介の事情を知らず、腕を組み切れ長の目でルメが睨む。
「す、すまーん…」
寒いのでとりあえずルメを上げると自室へ案内する。そして第一声が、
「くさっ」
…だった。
噂にたがわぬ臭気だったのか、ルメが、暖房が聞いているというのに断りもなく窓を開ける。その途端に冷たい外の寒気が入ってくるが、臭いよりはマシなのか、一先ずすべきことをしたといった様子でルメが落ち着く。
たまらないのは竜介だ。高熱を出している上に腹痛、それもパンツ一丁なのに窓を全開にされるのだから。しかしどういうわけかルメには有無を言わさぬパワーがあり、竜介ですら何も言えず、ベッドに腰掛け寒さに震えながらまぁゆっくりしていけよ、と言うだけだった。
「そろそろパワプロの他に別のゲームもやりたくなったから、竜介が前に言ってた、軍団員限定で最強にハマるゲームをやらせてほしい」(※竜介、感謝する!を参照)
「おおー、あれなー」
ブラフである。
あれはゲーム好きのルメをこちらへやって来させる、竜介がその場で思いついたブラフだった。
この窮地に竜介は、
「あれは伍長がどうしても貸してほしいっていうから貸しちまった。びっくりしたよ、伍長がゲーム如きに泣きつくなんてさ。ぶはははー!」
…と、伍長を話に持ち出すことでその場を取り繕う。ルメもしょうがないなあ、と言って自室にあるレトロコレクションを物色している。どうやらゲームから関心を反らすことに成功したようだ。
「そうだ、竜介。これ買ってきたよ」
ルメがセイコーマートの袋を手渡す。中に入っていたものは500㎖の牛乳パックだった。
竜介は嫌な予感がした。
「ブログの画像見るとカップラーメンとか焼きそばとか、揚げ物ばかりみたいだから買ったよ。ほら、飲みな」
我が意を得たり、良い事をしたという屈託のないルメの笑顔が、竜介を更に苦しめる。さっきから発汗をしているのは体調不良故か、軍団員の善意を無にしたくない良心故か。この困った軍団員にさっさと今日は体調が悪い、本日の所は申し訳ないがお引き取り願いたいと伝えればよいものを、彼はこの時だけ筆頭として軍団員に心配かけまいと依怙地になるのだった。

キンコーン…

新たなる来訪者。
すっかり冷え切った自室。
差し入れの冷たい牛乳。
もうどうにでもなれ、と竜介がベッドの上へ横になる。
そこでなされる会話。
「あれー、ルメちゃん。めずらしーねー」
「ひろみGOも竜介の所に来るんだ?」
来訪者はひろみGOだった。
彼は来訪の度に差し入れでピザを持って来てくれるが、今の竜介にそれは有難くない。
それにしても、竜介軍筆頭の家へ訪問するゴーレンゴーの首領。両者は図らずして同盟関係であることに、まだ気づいていなかった。
「ピザ食べる?またもらってきたんだー。竜介も食べるでしょ?」
体調不良に苦しむ竜介をよそに、ひろみGOとルメが和気藹々とピザを広げる。ビールもあるらしい。しかし冷めたピザでも食べられなくはないが、冷えきった室内はよろしくないと意見が合致したらしく、この時ようやく窓が閉められる。
「ねー、りゅーすけー。どれがいい?完熟トマトと厚切りベーコンマヨでしょ、バジルとコーンマヨでしょ」
「俺の買ってきた牛乳も忘れるなよっ」
どうしてマヨネーズ系ばかりなのか?それに牛乳が合わされば、自分の胃の中がピザのようになってしまうではないか。
耐えられなくなった竜介は、体調不良の旨を二人に伝えようと腹に決めた。いや、もっと早くそうすればよかったのだ。
「あのさ、実は俺――」
「そうだ、りゅーすけ!」
竜介を遮るようにヒロミGOが叫ぶ。
今度はなんだ、と竜介はうんざりした。
プリペイドカードもらってない?さとこ達が動いたみたいで、全然来ないってネットで言ってたよー」
「俺も見たぞ!ななしんが遅くまで竜介が来るのを待っていたな」
自分にプリペイドカードが与えられている…。竜介はそれを聞くとベッドから起き上がり確認しようとした。…が、腹痛が走る。
尋常ではない痛みだった。気付けば発汗もしている。
「うっ、腹いて―…」
「何だりゅーすけ、体調が悪いの?その汗ってもしかして熱のせい?」
ひろみGOが今更竜介の状態を気にかける。そして事もあろうことか、彼は竜介に自分が持参したビールとルメが持参した牛乳をブレンドして飲まそうとした。
「りゅーすけ、その汗はやばいよ。脱水症状になっちゃうよ。だからほら、水分補給。ルメちゃん、お粥作って。下のキッチン適当に使っていいから」
「うん、分かった」
ルメが階下へ降りてゆく。
そしてひろみGOによって口へと注がれるビールと牛乳のブレンド
………
……

その後、竜介は母に与えられたお金で病院へ行く。結果、胃腸炎だった。
竜介が今年買った神アイテムは、『健康』だった。
(即興)